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Vol.5

 ここ数年、気になっているのは<お菓子の価格>です。お菓子屋さんは多く自家製・自販。当然、ご自分で価格をつけておられますが、戦後60年がすぎ、その後のまわりの諸物価と対比しても、お菓子は非常に安すぎないでしょうか。衣食住に関する価格とお菓子を比べるのは、荒っぽい論争かもしれませんが、例えばタクシー代やラーメン代やライフスタイルの中にある固定費とくらべてみて。
  株式会社アンゼン・パックス代表取締役 尾関武男

■価格って何ですか
 もちろん安いということは消費者にとって嬉しいことです。しかし、それが適正であるかどうか、原価算入、利益確保は計算できても、その利益の中に社員が将来を夢見てゆける報酬、先々の事業の成長までが積算されているかどうか。少なくとも、営業・製造ともにいい人材を登用できるかどうかの鍵は、お菓子の価格にかかわってきます。
 具体的に、労働時間の対価からするとどうでしょうか。あるいは機械設備など現場への投資、リースにせよ初投資にせよ、まかなえているのかどうかといった細かい積算をドンブリ勘定にしていませんか。よくよく細分化してみると、労多くして益少なし、なんてことになることもありえます。
 多くのお菓子屋さんは、お菓子の価格を決定する際、同業他社の価格をとても意識されますが、特にその地区をリードしている一番店の価格を基準にしている場合が多いように見受けられます。いったい何の根拠があってそのような決め方をなさっているのか。「一番店が100円だから、うちは80円」。その時点で、オーナーは自らの店を一番店以下に位置づけていることになります。果たして自分が決めたお菓子の価格で、店の価値まで位置付ける必要があるでしょうか。
おいしさを作る技術力、あるいは材料の吟味、かけた手間暇、こだわり等からすると、もしかすると価格は一番店より上回っていていいかもしれない。が、そこで10円なり20円なり下げて、少しでもお客さんを逃がしたくないとお考えかもしれません。しかし、一旦そう構えると、経営は脆弱化しやすく、なかなか伸びない。
 くどいようですが、一個のお菓子の価格に身内である奥様、お子さんに対する適正な報酬は反映されているでしょうか。戦略的なことで言えば、店はやはりサービス業ですから、楽しくきれいにしておくべきだと思いますが、ある一定期間で減価償却してリニューアルするときの十分な蓄え、そんなメンテナンスの費用も考慮されているでしょうか。
 値段を安価に設定することは簡単です。でも、従来なら100円でよいものを20円下げて80円にするとき、まず材料の質を下げる、あるいは手をかけていたところを機械化する、という方法をとるとしたら、たちまち商品は粗製乱造、均一化されたものになってしまいます。そうなると商売の目的すら、わからなくなってしまう。

■安価と高価を分けるもの
 かつてダイエーの中内さんは「価格破壊」を文字通り実践して、説明するまでもなく現在のような事態となりました。日本マクドナルドもしかり。一時は58円までプライスダウンして活気的ではありましたが、その価格はどうやって成り立つのか、どんなものを食べさせられるのか、不安にさせられた人もいたでしょう。
 安いのはいいけれど、適正価格をあまりにも逸脱した結果は、必ず量でカバーするしかありません。現状は少子化が続き、これまで以上に食べる分母は少なくなっていきます。安い価格を大量生産でカバーすることは、時代に相反することです。ユニクロの例をみてもすべてが安易な価格設定で、売り上げが減ると呼び戻すために値段を下げるという悪循環を生み出しています。
 価格とは、モノを買ってくれる消費者と信頼の上で成り立っているものといえます。商品そのものにアイデンティティをもつものを、お客さまは納得の上購入しますが、近年、この現象は二極化して現れています。
 例えば、高知のある特産トマトは、一般のものの1.5倍。この非常に甘くて良質なトマトで作ったアイスクリームはかなり高額の商品になっていますが、それでも注文が追いつかない。とにかくおいしくて良質なものであれば高くても買うという現象の一例ですが、安いものじゃなきゃダメというものもある、これが消費の二極化です。
2005年上期・日経東西番付表のトップになった<富裕層へのサービス>を見ていると、商品がいいのはあたりまえ、買うまでにどれだけのサービスがあるか、という満足度=付加価値が定着したと見てとれます。
 100円ショップの影響を受けてコンビ二が100円の生鮮野菜を売る、こういう時代です。これは毎日食べるもので安いのはありがたいわけですが、生産者がわかる、無農薬である、産地直送である、季節感を出す、というような努力をして100円が成り立つかどうか、です。それにしてもマーケット全体のパイは同じなのに、スーパーがやっていたことをコンビ二もやろうとする。これは売り上げが頭打ちになっているコンビニが新しいジャンルを開発するためにやっていることです。
 一つ、価格で注意しないといけないことは、最近の土産菓子、空港で売っているもの、駅中で売っているもの、これはマーケットが違うということです。土産市場は数で決まり、さらにファッション性があるので、元から商品寿命を二年三年とみなし、次々と新たな商品にトライしていくというマーケットです。銘菓として残してゆける世界ではないから価格体系もまったく違います。

■価格は誰が決めるのか
 菓子は本来嗜好品、生活の潤い、仕事を終えたあとの一家団欒、あるいは来客があったときに、ライフスタイルの中に登場するものですが、まずは美味であることが前提で、話題性、価格というのは結構いい加減な尺度によるものかもしれません。
 おいしいという五感に、「これは一粒1000円のチョコレートよ」というフレーズがついてくると、価格も価値となって大きく作用していることを実感します。つまり消費者がその価値を認めるかどうか。結果、150円の饅頭でも、1000円のチョコレートでも、「自分のためだったら買う」という現代の消費感覚につながっています。やっぱり価格帯はそれぞれにあるわけです。
 大事なことは、いったい価格は誰が決めるのか、ということです。先ほども書きましたが、ご自身がお決めになった価格を安易に過去の類型とか概念で考えず、消費者が納得できる価格を決定してゆく。そのために、どういうお客さんに来店いただきたいか、どの客層をターゲットにしたいか。例えば、消費者の所得、ローンを組んでいるかどうか、不可分所得が十分か、性別、年齢、いろんな目的買い…こういったことも常に分析する必要があります。
■付加価値とは
 最近の洋菓子業界では、パティシェ自身がスターとなり、自分の技術力を世間にアピールしています。自分の修行時代のプロフィールまですべて消費者に示しながら、価格に添加している、だから例えば老舗のショートケーキと今流行りのパティシェが作ったショートケーキが、50円も100円も違っています。最近できた丸の内のある洋菓子屋さんのケーキはカットされたもの1個が700円、原料は最高のものを使っているにしても、さらにその人の付加価値、ビジネス力も当然価格に反映されているわけです。それでも納得する人は買っている、それが今の洋菓子業界です。残念ながら和菓子にはそういう考え方がありません。
 お菓子一個の価格の結果が、家族労働集約型としてしかやれない、いい人材が登用できない、いい場所に展開できない、百貨店でいい条件で展開できない、など、いろんなところに響いてくるのも事実です。だからこそ、ご自身の価格を見直してみることが、とても大事だと言いたいのです。
 そして、付加価値が見えないと後継者は育っていかないということ。閉鎖的でつらい商売、そこにお店ならではの価値を見いだせなくては、後をつぐ人は育ちません。付加価値は商売の原点でもあるのです。
■付加価値を原動力とする
 最後に当社の立場から申し上げると、付加価値として原価算入できるパッケージの割合を、もう一度見直されることをお薦めします。われわれは、商品の特性、商品のうまみやメッセージを伝えるためのツールとしてのパッケージを提案しています。
 パッケージ自体も二極化しています。ゴミになるパッケージの究極はレジ袋。もうひとつは、食べたあとも使いたい箱、二次使用の付加価値が付いたパッケージ、今はそのパッケージを目的に買いに行くという現象も出てきています。すでにショッピングバック、あるいは風呂敷みたいなものをグッズとして販売している店もあります。ひとつのブランドが確立すると、必ずやこのパッケージは一人歩きする。パッケージは機能性とともにファッション性をもつもの。当社は、そのファッション性を価値としてとらえ、パッケージをも戦略とするお客様にお応えしたいと常に考えています。
 価格が高ければいいというわけではないですが、十分なサービスと十分な感動を与えてくれる店作りが叶えられれば、一個のお菓子の価格はいくらでも可能性を広げます。例えばお菓子が街とかかわりをもつ、街に貢献できるボランティア的な価格をあえて加え、活動を展開してゆくことも可能です。
 たいていの企業、お店の社是社訓に出てくるように、社会に貢献していくという姿勢を具体的なアクションにしていくことができるでしょう。お店の夢も原動力も、そのスタートは一個のお菓子の価格にある。あえて申し上げたいと思います。
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