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茶の間 菓子の間
     
お茶とお菓子の間をとりもつティータイム。仕事の傍ら、お茶に魅せられてアジアの茶場を探索する広岡さんは、菓子通としても知られ、お茶をみつけたらお菓子、お菓子があればお茶を、と常にマッチングを愉しんでおられるとのこと。日頃の愉しみ方からおもてなしのアイデアまで、ジャンルやスタイルを問わず綴っていただきます。
 
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茶の間菓子の間

 何かの折に、向田邦子のエッセイを読み返すという人は、私の周りにも多いのですが、「読めば必ず、何かが無性に食べたくなってしまうエッセイである」ということでも、友人たちの間で話が一致します。『眠る盃』の中に、水羊羹の話が出てきます。「口当たりがいいから、つい手がのびかけますが、歯をくいしばって、一度にひとつで我慢しなくてはいけない」とあるところで、水羊羹好きな私などは襟を正してしまいます。我慢しなくては、いけなかったか、と。さらに向田氏の水羊羹に対する思い入れは並ではありません。大人の形のつけ方や愛情のようなものが伝わってきます。けっして同じようにというわけにはいきませんが、私もどうしても水羊羹が食べたくなってきてしまいました。
お遣い物の用事があったこともあり、「越後屋若狭」の水羊羹を求めてみました。この江戸の和菓子の老舗は、注文してから作るという完全な受注生産の形をとっていますから、注文してお店に取りに行けるときでなければ、なかなか求められません。作る側ばかりでなく、買う側もひと手間も、ふた手間も、と手間ひまをかけるところが、また、おいしさに拍車をかけるような気がします。もちろん、水羊羹そのものも絶品です。口に含んだ途端、小豆の甘さと瑞々しい水分とが、舌の上で、さぁーっと爽やかに広がっていくところが、すばらしい。ほろほろと、揺れるくらいに、切ったら崩れんばかりに、なりながら、崩れない。その加減も、すばらしい。中国茶の場合、お菓子は要らない、お茶の味わいだけで、ということがありますが、好物の水羊羹は、お茶も要らない、水羊羹だけでいい、と叫びたくなるほど、なのです。
 また、もうひとつ必ず話題に上るのが、「一幸庵」の水羊羹。夏になれば思い出すといった私の定番ともいえる水羊羹になっています。ご主人のこだわりが、すべてお菓子に集約され生かされているといってもよいような、これまた贅沢爽やかな味わいです。その一幸庵の3階は、漆のギャラリーになっています。向田さんのものを読んだ後に、良いものを愛でるという気持ちに影響されたのかもしれません。たまたま伏見漆工房の伏見眞樹さんの作品が展示されていて、一幸庵の水羊羹にぴったりの、さらにもちろん他のお菓子も喜んでくれそうな、桃皿という名の器をみつけ求めてしまいました。
 我が家のお茶は、「一保堂」の緑茶と、無農薬のお茶を作り続けている、超こだわり茶作り人、佐藤睦人さんの「かわばた園」のお茶が定番仲間です。双方とも、それぞれで味わって充分おいしいのですが、最近この二つをブレンドすると、さらにおいしい、と家族の意見が一致して、このところずっと、この二つのお茶をブレンドする飲み方をしています。水羊羹には、繊細でさっぱりとした味わいの中国緑茶、西湖龍井(さころんじん)を合わせてみましょうか、とも思ったのですが、エッセイの中の「新茶」に触発されたのかもしれません。いつもの一保堂の今年の新茶と佐藤さんのお茶とのブレンドでいただきました。
 またもうひとつは、足立区綾瀬の「千舟」の水羊羹とくず桜。外から見ればなんでもない普通の和菓子屋さんなのですが、水羊羹とくず桜は、口にした途端に誰もがうなずく納得の味わいです。お茶の同人たちも、その美味しさには、お墨付きといったところでしょうか。当たり前なようですが、桜の葉が手に入る時期だけ作りますという、ご主人のこだわりもうれしいことです。こちらは、いつもの抹茶でいただきました。
 水羊羹の日々のなか、梅雨の最中に、バラのチョコレートのお店を開いている友人、久保田輝さんから久しぶりのお誘いがありました。中国茶のサロンを開いている工藤佳治先生のところへ一緒に行きましょう、とのこと。久しぶりの工藤先生は相変わらず、独特の語り口も冴え、お元気な様子、高輪のサロンは、お部屋の調度もみごとでしたが、窓から見える木々の緑も、ごちそうでした。碧螺春(ぴろちゅん)安溪鉄観音だったと思われるのですが、久しぶりに先生が入れてくださったお茶は、蒸し暑い季節に、ほっとするおいしさでした。
 その帰りに、久保田さんの、バラのチョコレートのお店「メサージュ ド ローズ」に寄ってきました。チョコレートは冬が旬。ほんとうは、三角柱の生チョコレートが、私のお気に入りなのですが、それは、やはり冬の季節限定品でした。ディスプレイやテーブルコーディネートのアートサロンも開いている久保田さん、すっきりとしたセンスはさすがです。ディスプレイの中に、いつものバラのチョコレートに加えて、なんとブタのチョコレートが登場していました。チョコレートはフランス産ですがネーミングはイタリア語で「tutto bene(ツッツベーネ)」。『すべてOK、全部OK、みーんな良い』という意味だそうです。欧米ではブタは、幸せのシンボルなのだそうです。天使の羽をつけたブタも、なんとも愛らしい。また産地の違うチョコレートを配分をいろいろに変化させて作られたブタさんも。チョコレートそのものの味わいを産地の違いうや配分によって様々に楽しめるのも、チョコレート専門店ならでは、のアイデアとおもしろさです。コクのあるチョコレートに、リーフルダージリンハウスの「典蔵黒金(クラシック ブラック ダイヤモンド)」を合わせることにしました。龍眼の木の炭で焙煎された台湾梨山産の半発酵茶、コクのある青茶。手を掛けた良いチョコレートとは、いい勝負になるのでは、と思って合わせてみました。少々チャレンジャーな試みかもしれませんが、暑さを吹き飛ばすには、このくらい行ってみましょう、というようなお茶とお菓子のガチンコ勝負な組み合わせだと思います。

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