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ここ数年、7月になったら、徳島の阿波番茶づくりを見たいと思っていました。お天気や、茶葉の育ち具合で、日時を決めるとのことで、いつになるかと心待ちにしていましたが7月半ばになって28・29・30日に作るとの連絡が入り、徳島県勝浦郡上勝町『上勝阿波晩茶』の山田さんを訪ねました。
東京は例年になく梅雨明けが遅く、はっきりしない天気が続いていましたが、徳島空港は、晴れ渡り、すっかり夏空が広がっていました。空港からは、バスを3つ乗り継ぎます。やっと傍示の停留所に着き、山田さんに連絡を入れると「早いなあ。今まだ、山にいるからもう少し待っていて」とのこと。バス停の周りには何もないので不安ですし、暑いので、なんとか動かなくてはと「では、そちらの方に、ぼちぼち歩いて行きますから」と答えると「何言ってる、3時間かかるよ〜。少し歩いたところのお米屋さんに、送ってもらい」とのことだったのですが、あいにくお米屋さんは不在。それでも、お父さん(稔さん)が迎えに来てくれて、山田さん宅に到着しました。
前日摘んだ茶葉は、すでにシートの上に寝かせてありました。当日の午前中に摘んで来た茶葉は、重さを量って、シートの上に寝かせます。摘んだ茶葉が入った布の袋1袋が、5〜6kgから10kgもあるのには驚かされました。今年の茶葉は、採るときの感触が「ねばい」そうで、天候、日射不足が影響しているせいなのでは、とのことでした。
上勝阿波晩茶の山田さんのところでは、山田喜美子さんを中心に、茶摘みには、近所の女性陣が手伝っています。朝は6時半から11時半、午後は1時から6時まで茶摘み。合計1日10時間も茶摘みをするのだそうで、ほとんどが60代以上の女性です。山田さんは、茶摘みから帰ると、すぐに、お昼ご飯の準備と、大忙しです。初めて会う私にも、お昼を振舞ってくれました。そして、すぐに午後の茶摘みに出かけます。私もさっそく、お伴、身支度を整えて、いざ出陣です。
軽トラックを巧みに運転して、山に到着すると、すでに何人かが茶摘みを始めていました。80を過ぎた方も何人か。茶の木は、山の急斜面の、いたるところに自生しているのです。十分に育った茶葉を、軍手をした手の親指と人差し指の間で、枝からしごいて、こき取るようにして摘みます。私も、蚊取り線香を腰に吊り下げ、もう片方の腰に籠を下げ、手には軍手で、茶摘みを始めました。簡単なようでいて、うまく、こそげ取るのは、けっこう難しい。力も要ります。一生懸命やっているつもりなのですが、皆、早い早い。そして、茶摘みをした後の茶の木は、次々と、まる裸になっていき、ずんずんと、場所を移動していきます。どんどん山を登っては、摘み、摘んでは登って行く。さぼっているわけではないのに私だけが、ひと処で、しこしこと茶摘みすることになるのでした。
3時になり、山田さんが声を掛けて、冷やしてきた阿波番茶とカステラで、山の道端でおやつの時間。暑いのですが、そよ吹く風がさわやかでした。私はと言えば、慣れない作業に疲れ果てて、お腹も空かないのが、情けなかった。
その時誰かが、「あっ」と声をあげました。「どうした?」「手ぬぐい流れてしもた」とのことで、手ぬぐいを湧き水の流れに、落としてしまったようです。山の急斜面の湧き水ですから、流れも速く急なのです。一瞬にして下の方へと消えていきました。「とれんの?」「流れてしもた。でも、名前が書いてあるからな。ははは」「ほうか、ははは」「誰かが山の梺で拾うたら、届けてくれだろ」「ほうか〜」との、のどかな会話が、なんとも、心地いいご馳走でした。
この日は、5時半で作業は終わり。「毎日、朝から晩までで、皆も大変だから」と気遣う山田さん。そして、帰り道の途中で、私だけ生ビールをご馳走になりました。その美味しかったこと。体を使って働いた後のビールは格別でした。その店で出た、おつまみが、地元ならでは。「みょうがのスダチとしょうゆ和え」など。ビールの後は、やはり阿波番茶。ここで出るお茶は、すべて阿波番茶です。ホテルに置いてあるお茶も、阿波番茶でした。山田さんから「手、痛くないか?」と聞かれました。その時は痛くなかったのですが、夜、親指と人差し指が手荒れのようになって腫れ、少し痛くなりました。記念のような勲章のような気がしました。
翌日フロントで、これから茶摘みと、茶すりをしに行くんです、と言ったところ、手が痛くなるからと、絆創膏をいただきました。また別のホテルの人は、夜勤明けの帰り道だからと、山田さん宅まで送ってくれました。「田舎では、甘えなくては。甘えていいんですよ〜」と言ってくださり、ほんの少しの滞在であるにもかかわらず、上勝の皆さんに支えられている心地よさを十分に満喫しました。つかず離れず絶妙な距離で、もてなしてくれているような感じで、人の心の暖かさが伝わってきて本当にジ〜ンときました。
さて、昨日とは、違う山での茶摘み。病気で茶摘みができなくなった方の山での茶摘みです。茶の木は、1年に1度、茶摘みをしないと、いい茶葉にならないので、協力して茶摘みをします。
到着すると、ちょうど10時のおやつの時間。子どもの頃から、9時から働いて「10時のおやつ」というのは早すぎるような気がして、どうしてなのかなと思っていましたが、本来は朝6時半から働く人が10時頃に休憩をとるということだったのだ、と納得がいきました。朝4時半起きで、山田さんと谷口さんが作ったという『山っ子もち』と阿波晩茶。到着したばかりでというのは、気が引けましたが、いただきました。よもぎの、香りもたっぷりで、小豆餡が甘すぎず、絶品でした。阿波晩茶は、山田さんの息子さん武志さんが、「冷たくし過ぎず、自然に冷えたお茶が、一番おいしい」との言葉がぴったり、自然なままのおいしさです。太陽の光の中、山の風に吹かれて、手作りのお餅と手作りのお茶を、いただいている自分が、本当に贅沢に思えて、なんとも幸せでした。本当に幸福なお茶の時間でした。
※阿波番茶は、夏の暑い盛りに、じゅうぶんに育ちきった茶葉を一番茶として、1年に1回だけ茶摘みをします。そして茶葉は手作業、すべて手摘み。急な山の斜面に自生している茶の木であるため、もちろん農薬は使わず、無農薬であること。さらに茶の葉が陽に当たり生育するように、草取りなどの手入れを怠らないようにしていること。などが、特徴です。次回は、摘んだ茶葉をどのようにして阿波番茶として作るのか、を、書いてみたいと思います。
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