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九寨溝へ行く機会があり、美しい水と緑の峡谷の風景を楽しんできました。海子と呼ばれる多くの湖と、山々の自然が織り成す自然、特に、さまざまに青く彩られた湖の景観には魅了され通し、ただただ圧倒されました。旅も終盤にさしかかった頃、チベット族の村を訪れることができると知り、訪ねてみました。九寨溝は四川省の北部でチベット族チャン族自治州の、北部地域に当たるのです。そもそも九寨溝という名前は、チベット族を中心とした人々が9つの山寨(村というような意味でしょうか)に分かれて暮らしていたことから、その名がついたといいます。ここ数年の間に急激に観光地として発展してきた地域です。私もその景観を楽しむ観光が目的でしたので、ここでお茶に出会えるとは思ってもいなかったのですが、村を実際に訪ねることができるなら、と少々の期待をしたのも事実でした。
まず、若いご夫婦のところで、お茶を、とお願いすると、気軽に作ってくれました。ここでは、茶碗にバターと塩、そして、お茶を注いだシンプルなもの。お箸が1本ついてきて、これでかき回して飲みなさい、と、これも思っていたものよりシンプルでした。よく「器具を使って撹拌する」「かき混ぜるという言葉、チャス、から、チベットではお茶を『チャスマ』と呼ぶ」などと聞いたことがありましたので、撹拌する円筒状の器具「ドォモ」を使って、草原でするように家庭の中でもそれを見せてくれるのかと思っていましたが、ここでは、自分でかき混ぜるものでした。少しずつ、かき混ぜて飲むことにしました。しかし「チベットのお茶の初心者」たる私としては、この方式が、良かったのかもしれません。思ったより、美味しくいただけました。塩とお茶は、合うのですね。旅の途中ですので、かき混ぜすぎてバターを多く摂り、お腹をこわすといけないと、少しずつ混ぜて飲んでみたのですが、なかなかいける味でした。段々に慣れてくるのです。言葉が通じなかったので確かめることができず、そのバターが、ヤクのバターであろう、という推測で終わってしまったのが、残念でした。羊のバターであったかもしれませんが、匂いはきつくありませんでしたし、九寨溝周辺ではヤクを放牧していましたので、ヤクであったろうと推測しました。
以前訪れたネパールのチベット仏教の寺院の周りの店でも、「磚茶(たんちゃ)」と言われる、茶葉を圧縮してレンガ状に固めたものが売られていました。これを削って煮出して飲むのです。チベットも同じ磚茶を使うようです。またネパールのチベット寺院ではバターも塊で売られていました。ネパールの仏教では、灯明にバターを使っていましたので、そのためのバターかと思っていましたが、その時お茶にも使っていたかどうかは、確かめられませんでした。九寨溝のチベットではお茶に使っています。その「磚茶」は、チベットで産するわけではありませんので、中国から遠く運ばれてくる貴重品だということです。
料理とお酒を出す店でも、お茶を頼んでみました。すると、今度は、瓶の中の粉を茶碗に入れます。そして別の瓶から砂糖を加えます。お湯を注いで、出来上がったのが、なんと「お茶」とのこと。メニューには「酥油茶」とあり、これを指差されて出されたのが、二種目のお茶です。お茶というより、甘いスープ。日本で言えば、葛湯のようなものでしょうか。このとき入れた粉は、『青抄粉』というもので、はだか麦の粉のことだそうです。メニューには、「はだか麦のお酒」と書いてあるものもありました。チベットでは「ツァンパ」といって、はだか麦を炒ったものを主食にするそうで、この地で、はだか麦はお茶にもお酒にも変身する便利な食物なのだと思わせられました。言い換えれば、牧畜は盛んでも、耕作地に恵まれない土地でできる貴重な食物であるはだか麦を、せいいっぱい変化させ利用しているのだと、実感しました。
今回は、たまたま九寨溝近辺のチベットのお茶についてでしたが、一言でチベットといっても、かなり広く、チベットのお茶といっても、まだまだ入り口に立っただけのような、お茶体験だったかもしれません。しかし、こうなると、もっともっと奥地に行ってみたくなってきます。チベットのお茶が、なぜか私を、山の奥へ地球の奥地へと、呼んでいると思えるような気さえしてくるのでした。
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