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東京生まれ。幼少から日本の伝統文化に感性を育まれる。会社勤務を経たのち料理に
関する研究を始め、現在シンク・クリエーターとして幅広く活躍。
西麻布「汁菓子siruka」では、オーナーとして伝統を大切にしながらも自由な発想の
新しい甘味を提供。食材、料理、美そして環境まで意識した「食」の総合プロデューサー。
尾関
この一、二年、「お遣いもの」「お取り寄せ」「おもたせ」がブームです。お菓子を取り寄せる楽しさはもともとあったものですが、今のこの傾向をどう見ておられますか。
酒井
数限りない「お取り寄せ」の本が出版され、雑誌でも「有名人おすすめの商品」などの特集が目立ちます。編集者も全国くまなく探してくる一方で、常に新しい商品を紹介しようとやっきになっている。メディア側は「自分だけのお菓子」「人が知らない逸品」といったものへの要望が高まっていることを歓迎しつつ、むしろ「お取り寄せ」は一時的なブームでなく、日常生活のシステムとして定着していくであろうと予測しています。そんな中で、生き残りをかけていろんな競争も生まれていますが、当然、菓子は産地ごとの特色が魅力ですね。例えば西日本なら柑橘類を使ったお菓子や南蛮菓子といったように、さまざまな菓子が全国どこにいても買えるようになりました。
尾関
今、お菓子はその土地の名産になり得ているでしょうか。例えば魚介類や果物であれば産地感もあるのですが。
酒井
先日、柚子のお菓子をいろいろ食べ比べてみましたが、やはりご当地菓子となっているものによい商品があると実感しました。消費者からすると、その土地の特色あるお菓子がどれだけ昔ながらに作られているか気になるところです。「昔ながら」というのは、今でいうスローフード、当初は、きっと地場でとれる素材をお菓子に使うのが当たり前だったと思います。これだけ、雑誌やネットが使えるようになると、実際、買う方は地方特産品ということにさほどこだわっていない、たまたまそこにおいしいものがあったということでしょう。例えば金沢と聞いて落雁が食べたいと思う人がどれだけいるか、そういう視点で落雁を取り寄せているかどうか。
尾関
地方のお菓子屋さんは、お菓子がその土地の文化を伝える、という意識を強くもっていると思います。それは伝わっているでしょうか。
酒井
やはり職人さんが一つ一つ手作りされている自家製菓子は、断然オーラが違う(笑)。それだけ素材を知っているという強み、貫禄でしょうか。秋になれば栗のお菓子は近所でも買えるけど、やはり岐阜のあの店の栗きんとんをと求めるのは、名産菓子を食べたときのオーラ体験あってこそですね。
尾関
最近は、産直品を含めても日本の食文化、贈答文化の変化も大きいですね。
酒井
私自身、和菓子に触れて育った方だとは思いますが、和菓子の贈答色、お土産色は強かったですね。昔は誰かが地方の香りを乗せて持ってきてくれるものだった。最近はどこにいても買える分、土地に対する関心は薄れているかもしれませんね。でもそのお菓子を目の前にすると、作り手側が脈々と作ってきた年月や誇りが確かに感じられます。但し、これは一度出会って記憶されるもの、評判を聞いてというものですが、「お取り寄せ」のいいところは、五感で選べなくても言葉で選ぶことができること。お菓子の背景を知ると、どんなお菓子だろうという興味が湧いてきますし、由来と味の結びつきに関心をもつ方は結構多いと思います。このことは、和菓子の存続においては非常に大事なことだと思っています。お店に行ってしまうとお菓子の姿かたち、大きさや数が気になりますが、メディアであれば、まずはお菓子に込められたメッセージや評価から知ることができる。取り寄せブームのヒットは、お菓子の背景をみなさんが気にしているということでもありますね。
尾関
洋菓子のパティシエブームに、あまり地方性は見られないですよね。逆に、作り手のオーラが魅力となって いる。和菓子の場合もそういった作り手のオリジナリティのみで通用するものでしょうか。
酒井
洋菓子の職人ブランド路線と違って、和菓子の職人さんは表に出てきませんね。お菓子が店の看板であって、職人さんのお菓子ではないというイメージが一般的でしょう。言い換えればお菓子そのものがオリジナリティをもちえている、ということでしょうか。例えば地方に和菓子の新しいお店ができて、地元の豊かな素材をふんだんに使った新しいお菓子がつくられているとしたら、地元の人が喜ぶお菓子、そして今、一番魅力的なお取り寄せ菓子となりえるはずです。
尾関
季節感や地域性が魅力となり店のオリジナリティになっていくわけですね。そうはいっても菓子以外の商品とも闘わなくてはならないマーケットの中で、どこを目指したらいいのか、決め手が欲しいものです。酒井さんは自分で起こしたビジネスを成功させておられますが、和菓子店が成功するポイントはどこにあると思いますか。
酒井
うちはまだまだですが、一つ一つ手作りで製造し、お客さんと対面して販売する経験を通してみて、お菓子を製造する大変さが本当によくわかりました。お菓子屋さんが家業でそれをやってこられたことはとても素晴らしいですね。成功もなにも、続けていくには、そこに”昔ながら“の原点があればいいのではないでしょうか。但し、社会全体が機械化された時代に、和菓子だけ価格が安いことに関しては疑問を感じています。洋菓子に比べても安いし、手作りであればこうせざるを得ないという値段づけがあると思うのですが。値段の枠を一度はずして、せめてケーキと同じ価格づけを考えてもいいのではないでしょうか。お菓子を丁寧につくっていることを消費者に理解してもらうために、なにか付加価値をつける必要があると思います。
尾関
”昔ながら“の原点を、どう今に打ち出してゆくかを考えるとき、和菓子づくりを価値から見直してみることも必要ということですね。本日はどうもありがとうございました。
この記事は製菓製パン2006年2月号に掲載されたものです。