もはやインバウンドと呼べない観光産業
訪日外国人旅行客、いわゆる「インバウンド」の急増が叫ばれて久しくなりました。コロナ禍が明けて以降、経営環境における最大の変化といえば、やはりこのインバウンド需要の激増ではないでしょうか。その経済効果は計り知れず、各地に大きな恩恵をもたらしています。
一時のブームにとどまらず、リピーターが定着しつつあるのも特徴です。かつて日本人がハワイやグアム、香港へ何度も足を運んだように、今や日本が世界中の人々にとっての「定番の旅行先」となっています。
2003年の「ビジット・ジャパン・キャンペーン」以降、伸び悩む時期もありましたが、近年の円安傾向やビザ発給要件の緩和をきっかけに、日本は圧倒的な人気目的地となりました。アジア近隣国のみならず欧米からも多くの観光客が訪れており、真の意味でのグローバルな需要が生まれています。
ご承知の通り、日本は世界的に見てもきわめて旅行に適した国です。国土は限られているものの多様な観光資源に恵まれ、高度経済成長期に培われた交通インフラも非常に発達しています。さらに、スマートフォンによる即時翻訳やキャッシュレス決済の普及が追い風となり、「世界で最も旅しやすい国」と評されることも珍しくありません。
世界最古の皇室の歴史、歴史ある神社仏閣などの文化遺産に加え、四季折々の豊かな自然が人々を魅了して止みません。そして何より、「ガストロノミーツーリズム」に代表される質の高い食文化――絶品のお料理やお酒、そしてこだわり抜かれたお菓子が、旅の満足度を決定づけています。
欧米の航空会社では日本路線の搭乗率が90%近くに達し、自国からの訪日客を見込んだ路線拡充が相次いで発表されています。
では、私たち事業者はこの傾向を踏まえ、5年先・10年先をどう見据えるべきでしょうか。
残念ながら、日本における「観光産業」の研究や体系化は、欧米諸国に比べて後れを取ってきました。オーバーツーリズム対策や価格設定(ダイナミックプライシング等)の議論は盛り上がりを見せているものの、統計に基づいた戦略的アプローチや専門的知見はまだ十分とは言えません。
本来目指すべきは、観光産業が健全に定着し、地域住民の暮らしと調和しながら発展する姿です。そして単に外国人観光客を受け入れるだけでなく、その経済力を起点として、国内の他産業の成長や技術革新へ波及させていく視点が欠かせません。
たとえば、日本に魅せられた外国人が現地で飲食店を開く際に、日本の高度な店舗建築や内装技術が導入されるような流れを作ることです。また、アニメなどの強力なコンテンツを擁しながらも、知的財産権(IP)ビジネスの面では欧米に後塵を拝している現状があります。欧州諸国に学び、コンテンツや伝統文化の権利化・ブランド化を強化していく必要もあります。
菓子産業に目を向ければ、日本は間違いなく「世界最高峰の菓子文化」を持つ国の一つです。この価値を単なるローカルな消費にとどめず、観光産業やグローバルな視点と結びつけていくこと。それこそが、これからの菓子業界における持続的な成長と安定をもたらす重要な鍵になるのではないでしょうか。
代表取締役 尾関 勇