値上げ時代に「居心地の良さ」が光る場所
先月末からニュースや検索ランキングでも盛んに報じられているのが、多くの食品の値上げの話題です。今年は昨年と比べても5倍以上の品目が値上げされており、「慣れた」とはいえ、消費者心理にとっては本当に厳しい状況だと感じます。
高価格帯のレストランは一部を除いて客足が鈍り、満席が続かない店舗も少なくないようです。一方で、私たちの身近な存在であるマクドナルドは、実質的な値上げをしながらも「500円セット」をしっかりと残し、消費者のイメージ悪化を防ぐ巧みな戦略を見せています。さすがとしか言いようがありません。
そんな中、東京や大阪、福岡などの都市圏では、またかと思うほど新しい商業施設が次々と誕生しています。以前のビルと比べると、どこも格段にスタイリッシュで、入居するテナントやレストランの数も圧倒的に増えました。もちろん、どこも美しく、訪れる人を大いに楽しませてくれることでしょう。しかし、賑わってはいても、これらの新しい商業施設が今後どこまで集客力を維持できるのかは、誰にもわかりません。もちろん、上層階のオフィスやホテルで収益の柱を確保している施設も多いでしょうから、一概に問題視はできないのかもしれません。
その中で、2003年に開業した六本木ヒルズは、まさに「安定の老舗王者」といった風格です。今やすっかり観光名所となり、オフィスには多くの人々が集い、飽きさせない工夫で今なお人々を惹きつけています。新しいコンテンツを次々と導入する姿勢は、やはり卓越していると感じざるを得ません。開業から22年が経過し、その枠組みがシステムとして確立され、リピーターも多いため、よほどのことがない限り、今後も安定した運営が見込めるでしょう。
そこで、さらに商業施設の「老舗」を探して、先日、有楽町にある交通会館を訪ねてみました。外観は明らかに年季が入っていますが、改めてこの著名な場所へ足を運んでみると、その魅力を再認識することになりました。
皆様もパスポートの申請や買い物などで訪れたことがある方も多いのではないでしょうか。上層階はオフィスですが、駅前という抜群の立地を活かし、下層階には昔から多くのテナントが軒を連ね、常に人々で賑わっています。
特に有名なのは地方のアンテナショップですが、チェーン店ではなく、ここにしかない個性的なお店もたくさんあります。インテリアは決して「スタイリッシュ」とは言えませんが、どこか懐かしく、そして何よりも居心地が良いのが特徴です。
入口に三省堂の大きな書店があるのも素晴らしいですね。やはり書店は、こうした大型商業施設の「顔」として大きな意味を持つと改めて感じます。庶民向けの気軽に立ち寄れる飲食店も多く、全国各地のポップアップストアも頻繁に開催されています。デパートなどと比べると、全体的に気取らない、「とっつきやすい」雰囲気を前面に出しており、それが多くの客を呼び、賑わいを見せているのです。
今や、このような肩肘張らない施設は、東京でもずいぶん少なくなってしまったように思います。
古さは感じさせつつも、ただ古びて人が寄り付かない雰囲気ではありません。魅力的なテナントと相まって、常に新しい発見と活気があるのです。通路が決して広いわけではありませんし、レストランなどの居心地も「最上級」とは言えないかもしれません。
しかしながら、今の食品値上げでストレスを抱える生活者にとって、交通会館のような場所は、肩肘張らずにホッとでき、買い物としても高い満足感が得られる貴重な空間なのでしょう。このような施設が、これからも長く続いてくれることを心から願ってやみません。
代表取締役 尾関 勇