激変の10年を読み解く — ギフト市場の「消滅」と「巨大化」

パッケージ屋が言うのも憚られることですが、全国各地の主にギフトを扱われている菓子製造販売の専門店様を拝見していますと、皆様が今の消費動向の激変にどう対処すべきか、大変にご苦労されている様子がうかがえます。
この10年間で、お菓子の「売れ方」と「市場構造」に起こった大きな変化を、私なりに整理して考察してみたいと思います。

過去10年間に菓子業界で起こった大きな変化

1.冠婚葬祭・法人ギフト市場の「消滅」 徐々に縮小傾向にあった冠婚葬祭や法人のギフト需要は、コロナ禍でほぼ消滅に近い状態となりました。皆無ではありませんが、かつての規模と比較することはできません。この変化は、多くの路面店や百貨店向け店舗にとって、売上の基盤が崩れることを意味しました。

2.お土産市場」の巨大化と主戦場化 2015年頃から急速に膨らんだお土産市場は、2018年頃に一度ピークを迎えましたが、コロナ禍で一旦シュリンク。しかし、2024年頃からは「リベンジ消費」に乗じて再び巨大化し、今や市場の中で最も大きなマーケットとして再構築されています。

3.値上げへの対応と消費者心理 この10年で、平均2回、多いところでは4〜5回の値上げが実施されました。これは菓子業界に限ったことではありませんが、これをスムーズに受け入れていただいたところと、残念ながらお客様の静かな反発を招いてしまったところとで、明暗が分かれています。

4.「新しさ」から「伝統のブラッシュアップ」へ 製造現場での人員確保が課題となる中で、かつて(デフレ脱却が見え始めた2003年頃からの10年間)のように、斬新な新しいお菓子を次々と開発する傾向は弱まりました。その代わり、保守的な既存ブランドや昔からのレシピに集中し、それを丁寧にブラッシュアップする戦略が顕著になりました。これは、戦略が打ちやすく、競合との差別化も明確で、売上確保に繋がりやすいという側面があるためでしょう。

これらの変化と並行して、消費者がお菓子を買う「場所」も大きく変わりました。
かつて専門店のギフト市場の主軸だった百貨店は影響力を低下させ、反対に、東京駅などに代表されるターミナル型販売が主軸となりました。全国各地でも、主要ターミナルに集約された商業施設が大きな影響力を持っています。
地方では、郊外のショッピングモールが主力となり、その中の専門店街が地域の菓子消費の中心になっているケースが多く見られます。もともとの市街地中心部にある単独の路面店やロードサイド店は、一部の繁盛店を除き、収益を大きく生むのが非常に厳しい状況にあると言えます。

そしてもう一つ、世間ではあまり指摘されていませんが、深刻な消費異変があります。それは、「老人ホーム大国」となった日本におけるシニア消費の消失です。
昔、私たちの商品をたくさん買ってくださっていた70代、80代のシニア層の方々が、老人ホームや介護施設に入所されるケースが増えました。その結果、「お菓子を買い歩く」「旅行に出てお土産を買う」という機会そのものがなくなり、その分の消費がごっそり抜け落ちているのです。
いくら人口が減りつつあるとはいえ、今後数十年は菓子を食べていただけるシニア層は多く存在しています。しかし、彼らが「施設」に囲い込まれてしまうと、私たちの業界にとって最も大切な「パーソナルギフト」や「小旅行土産」の需要が失われてしまいます。

この話にインバウンドは入っていませんが、そもそもインバウンドは一過性のものです。海外からの旅行者はお菓子を「その場で食べる」「ちょっとした思い出を買う」程度の消費が主で、地域のお菓子屋さんの売上の基盤にはなりにくいのが実情です。
本当に必要なのは、地域活性化の流れに乗りつつも、そのエリアの専門店が、「幅広い顧客層」、特に「健康で元気なシニア層」と「若い世代」の両方から「このお店、このお菓子でなければ」と強く支持されることです。
そのためにも、この激変した市場構造を冷静に見つめ、「新しい主戦場(ターミナルやモール、そして何よりオンライン)」で、「普遍的な価値(伝統のブラッシュアップ)」を、「パッケージという顔」を通じて、再構築していく必要があります。この課題に、私たちANZEN・PAXも知恵を絞ってご協力させていただきます。

代表取締役 尾関 勇