委託販売と自社販売
こちらを読まれている菓子製造関係の方も意外と気がついていないかもしれないが、世の中には製造した人間が自分で責任持って販売する製造直販の自社販売方式と、作ったものを誰かに委託して売っていただく委託販売(販売店への卸売も含まれる)に大別され、菓子業界においてそれらの違いについいてどう考えたらいいか?静かな課題になっています。
弊社のお客様である菓子製造小売業の皆様は紛れもなくこの製造直販です。そういった自社販売方式のところが元来基本であり、最近になって少し傾向は変わってきたものの、これを頑なに貫き通す店も少なくありません。
一方で、スーパーやコンビニエンスストアに並ぶ商品のほとんどは委託販売です。たとえプライベートブランド(PB商品)であっても、製造元と販売者が異なる以上、その本質は委託に近いと言えるでしょう。今や日本最大の商業施設となった東京駅や、高速道路のサービスエリア、空港なども、その多くが委託販売の形式をとっています(一部、テナントとしての直販を除く)。
ここで興味深いのが、近年躍進を遂げたユニクロやニトリといったブランドが、実は自社販売を徹底している点です。百貨店や量販店に商品を卸すのではなく、企画から販売までを自社で一貫して行うことで、独自の地位を築き上げました。昨今の菓子業界では、販売コストを抑えて売上規模を拡大するために委託の形を取るのが合理的だという風潮もあります。しかし、お菓子には衣料品や雑貨と決定的に違う点があります。それは「賞味期限」の存在です。
委託販売に対応するためには、原価を抑えつつ、日持ちを最低でも2ヶ月以上持たせるような商品企画が求められます。しかし、そのスペックに合わせようとすると、従来のお菓子が持っていた「本来の美味しさ」や「繊細さ」が損なわれてしまうのではないか。そんな懸念を抱かずにはいられません。
自社販売を貫く皆様には、「デリケートなお菓子を、最も良い状態で楽しんでいただきたい」という強い想いがあります。その情熱こそが、お客様との深い信頼関係を築く礎となっているはずです。
理想を言えば、百貨店の諸国銘菓や専門型のセレクトショップのように、販売側が専任スタッフを配置し、製造元の想いを代弁できる体制で販売することです。作り手と同じ熱量で説明し、丁寧に届ける。そんな「責任ある販売」こそが望ましい姿ではないでしょうか。昨今の人件費や諸コストの上昇を考えれば、自社での対面販売を維持することは容易ではありません。事実、都心の一等地で展開していた大手家具メーカーのIKEAが原宿と新宿の店舗を閉店することからしても、直販の難しさは増しています。
しかし一方で、「交通費をかけてでも、あの店のおいしいお菓子を買いに行きたい」という消費者の欲求は、今後ますます強まっていくと考えられます。
消費者に価値あるお菓子を一生懸命に作り、届ける。そして消費者も、その価値を理解し、納得いく価格で手に入れるために足を運ぶ。この「絶妙なバランスの接点」を維持することこそが、これからの菓子店にとっての理想形ではないでしょうか。
菓子業界を見渡せば、虎屋さんやたねやさん、六花亭さんといった名だたる企業は、まさにこの直販の価値を体現されている代表格だと、つくづく感じ入る次第です。
代表取締役 尾関 勇